東京高等裁判所 昭和53年(ネ)1815号 判決 1982年11月30日
控訴人・附帯被控訴人(被告) 清瀬市
被控訴人・附帯控訴人(原告) 渡辺良斉
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 附帯控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。
「1 控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し金一二六万一九七八円及びうち金二一万七八三〇円に対する昭和四八年一月二二日から、うち金四〇万九一八一円に対する昭和四九年一月二二日から、うち金三九七八円に対する昭和四九年二月二二日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求(当審における新たな請求を含む。)を棄却する。」
三 訴訟の総費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
四 この判決二項括弧内1は仮に執行することができる。
事実
第一申立
一 控訴事件
1 控訴人(附帯被控訴人、以下単に「控訴人」という。)
(一) 原判決中控訴人敗訴部分を取消す。
(二) 被控訴人(附帯控訴人、以下単に「被控訴人」という。)の請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文一項同旨。
二 附帯控訴事件
1 被控訴人
(一) 原判決中被控訴人敗訴の部分を取消す。
(二) 控訴人は被控訴人に対し原審認容額のほか次の金員を支払え。
(1) 金二一万七八三〇円に対する昭和四七年一二月二二日から昭和四九年七月一五日まで年五分の割合による金員
(2) 金四〇万九一八一円に対する昭和四八年一二月二二日から昭和四九年七月一五日まで年五分の割合による金員
(3) 三九七八円に対する昭和四九年一月二二日から昭和四九年七月一五日まで年五分の割合による金員
(4) 六六三万〇〇三〇円及びうち八八万二二四七円に対する昭和四七年一二月二二日から、うち一七八万一三〇八円に対する昭和四八年一二月二二日から、うち五万一四六〇円に対する昭和四九年一月二二日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
(四) なお、仮執行の宣言を求める。
2 控訴人
本件附帯控訴を棄却する。
被控訴人の当審における新たな請求を棄却する。
第二主張、証拠
当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、その記載を引用する。
一 被控訴人の主張
1 原判決添付別表(原判決三八枚目)を本判決添付別表のとおり改める。
2 原判決四枚目裏一行目「昭和四六年一〇月一四日」を「昭和四七年六月一日」と改める。
3 同九枚目表七行目「九五八万一四八四円」を「七三四万七二〇五円」と改める。
4 同九枚目裏七行目「土曜日につき一二時間」を「土曜日につき四時間」と、同八行目「休日につき一五時間三〇分」を「休日につき七時間三〇分」と改める。
5 同一〇枚目表五行目「のとおり」の次に「金四〇〇万一二〇一円」を加え、末行「四四二万二五九一円」を「三三四万六〇〇四円」と改める。
6 同一〇枚目裏二行目「別表(ハ)欄内のE3欄記載」を「別表(ホ)欄記載」と改め、九行目「九五八万一四八四円」を「三三四万六〇〇四円」と改める。
7 同一〇枚目裏一〇行目から一二枚目表八行目までを削除する。
8 同一六枚目表一行目から九行目までを削除する。
9 当審において、前記2のように請求期間を訂正し、昭和四六年一〇月から昭和四七年五月までの分は請求しないこととし、その分請求の趣旨を減縮する。
また、当審において、請求の趣旨を追加し、原審認容額のほか、前記附帯控訴の趣旨のとおりの請求をするものであるが、新請求のうち、附帯控訴の趣旨(二)(1)(2)(3)は、原審認容額より附加金を除いた分の遅延損害金の始期を遡らせて請求するものであり、同(二)(4)の六六三万〇〇三〇円中の一二〇万円は、弁護士費用を請求するものである。
10 第一、第三給水場においては深夜も含めて一時間ごとに各種計器類による測定(混和池、配水池の各水位、水圧の測定)、点検(配水流量、配水ポンプの作動状況の点検)と、二、三時間おきの井戸の点検、運転日誌への記録が必要である。運転時間の記録は現に保管されている。
11 「労働時間」とは「労働している時間」ではなく、「労働日における労務提供時間」「それに対して賃金を支払うべき時間」をいう。したがつて「手待時間」も含まれる。判断の基準は「労働力を使用者の指揮下においたか否か」である。
控訴人の断続的労働である旨の主張は時機に後れた攻撃防禦方法であり、この主張に対しては異議がある。
また、控訴人は労働基準法四一条三号所定の行政官庁の許可を受けていない。
12 弁護士費用
本件時間外労働割増賃金の未払は違法性が高く、控訴人には損害発生につき故意又は少なくとも過失があり、かつ、控訴人は不当に抗争しているものである。右の事情に加えて本件事件が事実上及び法律上困難な問題を含む事案であり、訴訟を追行するためには法律専門家の助力が不可欠であることなど諸般の事情を考慮すれば、相当額の弁護士費用は本件債務不履行と相当因果関係あるものとして控訴人においてこれを支払う義務がある。そして本件における相当額の弁護士費用は、日本弁護士連合会報酬等基準に基づく標準額の約二倍である一二〇万円が相当である。
13 よつて、被控訴人は控訴人に対して労働基準法三七条に基づく超過労働及び深夜労働割増賃金及び同法一一四条に基づく附加金の合計六六九万二〇〇八円に弁護士費用金一二〇万円を加えた総計七八九万二〇〇八円から原審認容額一二六万一九七八円を除いた六六三万〇〇三〇円並びに原審認容額一二六万一九七八円のうち二一万七八三〇円に対する昭和四七年一二月二二日から昭和四九年七月一五日まで、四〇万九一八一円に対する昭和四八年一二月二二日から昭和四九年七月一五日まで、三九七八円に対する昭和四九年一月二二日から昭和四九年七月一五日までそれぞれ民法所定年五分の割合による遅延損害金及び右六六三万〇〇三〇円のうち昭和四七年分八八万二二四七円に対する最終弁済期の翌日である昭和四七年一二月二二日から、うち昭和四八年分一七八万一三〇八円に対する最終弁済期の翌日である昭和四八年一二月二二日から、うち昭和四九年分五万一四六〇円に対する最終弁済期の翌日である昭和四九年一月二二日から、それぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
14 後記控訴人の主張、抗弁はすべて争う。当初控訴人主張の体制では適法な交替制勤務実施は不可能であつた。
二 控訴人の主張
1 同一三枚目裏末行から同一五枚目裏末行までを削除する。
2 第三給水場の規模及び機能は次のとおりであつて被控訴人主張のような二四時間勤務の必要性は全くない。
第三給水場の敷地は縦約二〇・三メートル、横約三二・六メートルのほぼ長方形の約六七五平方メートルの土地で、周囲は高さ約一・三メートルの金網で囲まれている。その主要な設備は次のとおりである。
配水池 一池(容量八〇〇トン)
混和池 一池
配水ポンプ 四台(うち一台は予備)
濾水器 一基
深井戸 三本(うち一本のみが第三給水場敷地内にある)
配水能力 一日約四、〇〇〇トン
配水量 一日約三、〇〇〇トン
給水世帯 約二、〇〇〇戸
すなわち、深井戸水源三か所(うち二か所は給水場外にある。)から揚水ポンプによつて自動的に汲み上げられた原水を導水管によつて混和池に入れ、塩素処理によつて濾水器で鉄、マンガン等を除去した後、配水池に貯水しておき、需要量に応じて配水ポンプで各家庭へ送水するものである。揚水ポンプ及び濾水器はいずれも自動運転であるが、住民の水使用量は時間帯により変化するので、需要量に応じて配水ポンプの押ボタンを操作して運転、停止をする。その回数は日によつて多少の違いはあるが、おおむね五回ないし六回程度の運転、停止をして三台のポンプにより送水量を調整する。
また濾水器は一日一回逆洗滌作業を行つて機械に付着した鉄、マンガン等を除去する。
そして被控訴人の一日の勤務内容は、おおむね次のとおりであつた。
(一) 季節によつて多少異なるが、午前六時三〇分頃、午前九時から一〇時頃の間、午後二時頃、午後四時から五時頃の間、午後九時から一〇時頃の間に各一回水の使用量に応じて配水ポンプの押ボタンを操作して運転及び停止を行う。
(二) 右のほか、午前八時三〇分から午後五時までの間の適当な時間において、一日一回次の作業を行う。
残留塩素測定(塩素処理後の残留塩素分を調べる)
各機械器具の点検
配水量等の記録
濾水器の逆洗滌作業
(三) 月に一、二回井戸の水位測定、点検を行う。
(四) 週に一回自家発電機の運転を行う(停電時に使用する自家発電機の点検のため)
(五) 週に一、二回程度塩素ボンベの取替を行う。
(六) 随時構内の巡視、清掃を行う。
自動化された給水装置は、ほとんど故障することはなく、ボタンを押すだけで水量が規制され、機械が作動するのである。したがつて、午後九時頃から翌朝六時頃まで就寝は可能である。
一時間ごとの使用水量等の記録は交替勤務が確立した昭和四九年一月八日以降のことである。
3 昭和三九年当時の町長渋谷邦蔵が被控訴人に対して口頭で申渡した勤務の内容は、正規の勤務時間である午前八時三〇分から午後五時までの間を除く時間について労働基準法四一条三号所定の断続的労働に類する勤務を命じたものであつて、時間外勤務を命じたものではない。
時間外勤務とは上司の職務命令によつて行われた勤務のみをいい、時間を特定すべきものである。
断続的労働は時間外勤務とは異なるものであるから、宿日直手当支給の対象とはなるが、時間外勤務手当は支給されるべくもない。たまたま断続的労働の一部としてなされた勤務が深夜に及んでも同様である。
控訴人は、被控訴人の右労働に対して清瀬市職員の給与に関する条例一四条の二に従い、他の職員の宿日直に対するのと同様(一)土曜日正午から午後五時までの勤務に対して日直手当として日額五〇〇円、(二)日曜、休日の勤務に対して日直手当として日額一、〇〇〇円、(三)泊込中の勤務に対する住込手当として月額二、〇〇〇円を支払つたものである。
もつとも、断続的労働について行政官庁の許可は受けていないが、本件の場合勤務時間が定められており、行政官庁の許可は要しない。
本件の場合、夜間は拘束時間であるが、労働時間ではない。
4 弁護士費用の主張は争う。弁護士費用の請求は、本件においては、債務者の予見しうる損害ではない。
5 抗弁
清瀬市には四か所の給水場があり、一か所の無人給水場を除き、ほぼ同様な勤務に服していた。
そして、昭和四七年八月八日応援職員一名を加え、第一、第四給水場で三名の交替制勤務を実施、昭和四八年四月更に三名の職員を採用し六名で交替制勤務を実施した。
その際被控訴人にも交替制勤務への参加を申入れたが、被控訴人は機械室に居住部分が接着しており、交替制勤務になると私生活が妨げられるとして参加を断つたものであり、昭和四九年一月七日に至つて漸く交替制勤務に従つたものである。
すなわち、被控訴人は控訴人の施策に抵抗して従わず、自己の都合によつて住込勤務を続けたもので、信義則の法理に照らして、本件請求のうち右期間にかかる被控訴人の請求は失当である。
三 証拠<省略>
理由
一 被控訴人の超過労働及び深夜労働割増賃金請求についての当裁判所の判断は、次のとおり訂正、削除するほかは、原判決の理由一(原判決一八枚目表三行目から同三四枚目裏一行目まで)と同一であるから、その記載を引用する。
1 原判決一八枚目裏一行目「証人岸民雄、」を「原審及び当審証人岸民雄(当審第一回)、」と改め、一行目から二行目にかけての「原告本人尋問の結果」を「原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果(当審第一回)」と改める。
2 同二〇枚目表七行目「証人岸民雄(但し」を「原審及び当審証人岸民雄(当審第一回、但し」と改め、九行目「原告本人尋問の結果」を「原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果(当審第一回)」と改める。
3 同二二枚目表九行目「岸民雄」を「原審証人岸民雄」と改める。
4 同二二枚目裏三行目から二九枚目裏四行目までを次のとおり改める。
「3 そこで、被控訴人の超過労働及び深夜労働による割増賃金請求権の有無は、被控訴人が請求期間内の各日において、正規の勤務時間以外、何時間給水機械の操作、点検等を行い、また待機の態勢をとつていたかによつて決せられるので、次に被控訴人の請求期間内における具体的な超過労働、深夜労働の事実について判断する。
(一) 原判決事実摘示被控訴人の請求原因3(一)の事実は当事者間に争いがない。
(二) 同3(二)(1)ないし(5)の事実のうち、被控訴人が第三給水場において、混和池、配水池の各水位及び配水流量の点検、水圧の測定及び記録、配水ポンプの作動状況の点検、残留塩素の測定、配水バルブの開閉、塩素流入量の調節、塩素ポンプの取替、給水場施設の補修及び清掃、住民からの苦情の受付等の労働を行つたことは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、前掲甲第九号証、いずれも成立に争いのない甲第七号証、第三一ないし第三三号証、乙第八号証の一ないし二〇、昭和五〇年一一月四日当時の第三給水場の施設を撮影した写真であることにつき争いのない甲第一二号証の一ないし一九、原審における被控訴人本人尋問の結果により成立を認める甲第九号証、第一一号証、当審証人武川慎二郎の証言によつて成立を認める乙第九号証の一ないし七、原審及び当審証人岸民雄(当審第一回)、同武川慎二郎、同渡辺瑞枝、原審証人長岐夫美雄、同星野政男、同伊東弘幸、同森田正美の各証言、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果(当審第一回)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(1) 第三給水場においては、三か所の井戸(昭和三八年当時は三号井一か所であつたが、その後同四〇年頃七号井が、同四四年頃一〇号井がそれぞれ新設され、現在のように三か所となつた。なお、右三か所のうち一か所のみが本件給水場内にあり、他の二か所は本件給水場外にある。)から水中ポンプによつて汲み上げた地下水を濾過用受水槽(この槽内の水位が混和池水位であり、右受水槽及び低圧受電室に水位を示すメーターがある。)及び東洋濾水器を通して塩素処理によつて鉄、マンガン及びその他の水の濁りを消すとともに滅菌したうえ(但し、濾過用受水槽と東洋濾水器は昭和四七年に設けられたものであり、それ以前は薬剤を注入して水の濁りを消していた。)、受水槽(この槽内の水位が配水池水位であり、右受水槽及び低圧受電室に水位を示すメーターがある。)に貯水し、残留塩素を測定して、配水ポンプ(四台設置されているが、そのうち一台は故障時に備えた予備である。また三台がすべて常時作動しているわけではなく、配水流量に応じて作動台数を調節する。夜間は、配水流量が少ないので、一台の作動ですむ場合が多い。)によつて配水する仕組みになつており(右配水流量を測定、記録するのがベンチユリーメーターである。)、そのほか高圧受電室、自家発電機などが設置されていた。
(2) 配水流量は、季節及び時間によつて異なるが、常時配水しなければならないので、前記各機械を二四時間連続して作動させ、水の需要量に応じて配水流量を調節するため、おおむね一日五回ないし六回程度右三台の配水ポンプの押ボタンを押し運転、停止の操作をして送水量を調整する必要があつた。
また、受水槽の水位も配水流量に応じて刻々と変化するので、右水位を一定に保つためには、水位の点検、井戸の水中ポンプの作動点検が必要であつた。
(3) 被控訴人は、前示(1)(2)の作業内容に応じて、混和池・配水池の各水位の点検、配水流量の点検、水圧の測定、記録、水中ポンプ及び配水ポンプの作動状況の確認、塩素流入量の調節、残留塩素の測定、配水バルブの開閉の各労働を行い、右各労働は昼間のみならず夜間にもわたつていたが、その回数、頻度は、配水流量及びその変化が多い昼間は操作、点検の回数も多く、配水流量及びその変化が少ない夜間は操作、点検の回数も少なかつた。記録についても夜間においては現在におけるような一時間ごとの記録は要求されていなかつた。また、被控訴人は機械の故障や停電などの事故に備えて、事務室又は管理室兼寝室において、機械の作動音に注意しながら待機していた。
(4) 被控訴人は、右の各労働のほか、機械その他の施設の修理、塩素ボンベの取替、水が濁つたり水道管が破裂したなどの住民からの苦情の受付及びそれに対する処置(簡単な応急修理ですむ場合には、出向いて被控訴人みずから修理することもあつた。)なども行つた。また右各労働は、昼間のみならずいわゆる夜間に及ぶことも時々あつた。なお、昭和四二年頃までは、第三給水場の近くにある都営住宅などの住民のため電話の取次をしていたが、同年に電話が自動制になつたときから、右取次の仕事はなくなつた。
(5) 被控訴人が住民からの前記苦情処理のため外出したり、夜間疲労のため眠り込んでしまつた時には、被控訴人の妻が住民からの苦情を受付けたり、機械の操作、点検などを被控訴人に代つて行つた。
(6) しかし右労働のうち最も主要なものは午前六時から六時三〇分頃を初回とし、午後九時から一〇時頃を最終回とする配水ポンプの押ボタンによる操作であつて、これは毎日定時に五、六回行わなければならないが、その他の労働はおおむね昼間の勤務時間(午前八時三〇分から午後五時まで)に行えば足りるものであつた。もつとも、苦情処理及びそれに対する処置の必要性は時間を構わずに起こる事象であるが、これは時々ある程度で毎日起こる事象ではなかつた。
(7) 被控訴人の第三給水場における前示労働は、平日も土曜日も休日も全く同じであり、従つて労働に従事した時間数は、平日、土曜日、休日で差違はなかつた。その点から土曜日、休日においても平日と同程度の昼休みの休憩(四五分間)がとられていたものである。
成立に争いのない甲第三七号証の一ないし四三、乙第六号証の一ないし一六、第七号証の一ないし一九、第一〇号証の一ないし一四、第一二号証の一、二並びに原審及び当審証人渡辺瑞枝の各証言、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果(当審第一回)中右認定に反する部分はにわかに採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はなく、請求原因3(二)(1)ないし(5)及び当審における被控訴人の主張10のうち右認定事実を除くその余の事実を認めるに足りる証拠はない。
(8) 以上の事実によれば、第三給水場においては午前六時前後から午後一〇時前後までの労働とそれ以外の時間の労働とはその質において差異があるものと認められる。
したがつて、被控訴人の妻が代つて労働したという時間を含めて被控訴人の労働時間は、操作の準備及び結果を見届ける時間を加えて午前五時から午後一一時までと認めるのが相当であり、その余の時間はいわゆる手待時間ではなく拘束時間と解すべきものである。
(三) 控訴人は本件勤務における労働は断続的労働に類するものであつて労働基準法三七条にいういわゆる超過勤務ではないと主張する。
被控訴人は右の主張は時機に後れた攻撃防禦方法であるとして却下を求めているが、控訴人の右主張によつて本件訴訟の完結が遅延するものとは認められないから右却下の申立を却下する。
しかし、被控訴人の本件勤務の内容は水道事業の性格及び右に認定した現実の労働内容からいつて、その労働の密度において監視又は断続的労働に類するものではないと認めるのが相当である(なお、仮に被控訴人の本件勤務の内容が監視又は断続的労働に該当するとしても、控訴人が労働基準法四一条三号に規定する行政官庁の許可を受けていないことについては当事者間に争いがないから、控訴人は被控訴人に対し同法の規定による超過労働割増賃金を支払う義務がある。)。
(四) そうすると控訴人及びその妻が請求期間内の各日において、超過労働及び深夜労働に従事した時間数は、以下のとおりとなる。
(1) 平日
午前五時から午前八時三〇分までと午後五時から午後一一時までが超過労働に従事した時間であり、そのうち午前五時から午前八時三〇分までと午後五時から午後一〇時までが深夜労働にならない通常の超過労働の時間であり、午後一〇時から午後一一時までが深夜労働に従事した時間である。
(2) 土曜日
土曜日における正規の勤務時間が三時間三〇分であることは当事者間に争いがなく、被控訴人はさきに認定したとおり平日と同様に昼に四五分間の休憩をとつていたものであるから、土曜日における超過労働時間数は、午前五時から午前八時三〇分までと午後〇時四五分から午後一一時までが超過労働に従事した時間であり、そのうち午前五時から午前八時三〇分までと午後〇時四五分から午後一〇時までが深夜労働にならない通常の超過労働の時間であり、午後一〇時から午後一一時までが深夜労働に従事した時間である。
(3) 休日
休日においても被控訴人はさきに認定したとおり昼の四五分間の休憩をとつていたものであるから、午前五時から午後一一時までの一八時間から休憩時間四五分を控除した時間だけ超過労働に従事していたものであり、そのうち午前五時から午後一〇時までの一七時間から休憩時間四五分を控除した時間が深夜労働にならない通常の超過労働の時間であり、午後一〇時から午後一一時までが深夜労働に従事した時間である。
(五) 控訴人は昭和四七年八月八日から交替制勤務を実施することとなり、被控訴人に対してこれに参加するよう被控訴人に申入れたが、被控訴人はこれに応ぜず、昭和四九年一月七日に至つて漸く交替制勤務に従つたもので、被控訴人は控訴人の施策に抵抗して従わず、自己の都合によつて住込勤務を続けたもので、信義則の法理に照らして昭和四七年八月八日から昭和四九年一月七日までの期間にかかる被控訴人の請求は失当である旨主張する。
原審及び当審証人岸民雄(当審第一、二回)、原審証人武川慎二郎、同森田正美の各証言によれば、控訴人から被控訴人に対して昭和四七年八月頃交替制勤務を実施するので参加するように申入れがあり、その後も数度申入れがあつたことが認められるが、被控訴人は交替制勤務の前提として従前の手当の問題を解決すること、住居と勤務室が接着していてプライバシーが侵害されるので住宅の提供を求めるとしてその申入れに応じなかつたことが認められ、これに反する当審における被控訴人本人尋問の結果(第二回)はにわかに採用することができない。
しかしながら、当審証人岸民雄の証言及び当審における被控訴人本人尋問の結果(第二回)によれば、当初(昭和四七年八月)の交替制勤務は職員一名を加えただけで計画されたもので完全な交替制をとるには人員不足であつたのであり、その提案が本件通達による超過勤務命令の内容を変更したものと解することはできない。控訴人は被控訴人に対する関係で優越的な地位にあり、適法に職務命令を発する権限を有していたのであつて、これをすることなく引続き被控訴人を従前どおりの勤務に服せしめた以上、控訴人主張のような信義則違背の理由により、被控訴人の前記請求権を否定することはできない。」
5 同三三枚目表二行目から三四枚目表八行目までを削除する。
二 被控訴人の附加金請求について
本件において控訴人は被控訴人に対し金六三万〇九八九円の超過労働及び深夜労働割増賃金の支払義務を負うものであることは前述のとおりである。そうすると、特段の事情の認められない本件においては、控訴人に対し、右金額と同額の附加金を被控訴人に支払うように命ずるべきである。
三 弁護士費用について
本訴請求は金銭債務の履行を求めるものであり、不法行為による損害賠償を求めるものではなく、また、本件全証拠によつても控訴人の本件応訴が不法行為に該当するものとは認められないから、被控訴人主張の本件の特殊性を斟酌しても、民法四一九条に照らし、被控訴人の弁護士費用の請求は肯認することができない。
四 そうすると、被控訴人の本訴請求は、超過労働及び深夜労働割増賃金並びに附加金の合計金一二六万一九七八円(別表(リ)欄末尾合計額欄記載)及び右金員のうち超過労働及び深夜労働割増賃金中金二一万七八三〇円に対する昭和四七年分の最終弁済期の翌日である昭和四八年一月二二日から、金四〇万九一八一円に対する昭和四八年分の最終弁済期の翌日である昭和四九年一月二二日から、金三九七八円に対する弁済期の翌日である昭和四九年二月二二日から、それぞれ支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余の請求(当審における新たな請求を含む。)は失当として棄却すべく、したがつて、本件控訴は理由がなく、本件附帯控訴は一部理由がある。
よつて本件控訴を棄却し、附帯控訴に基づき原判決を主文二項括弧内のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 川添萬夫 鎌田泰輝 相良甲子彦)
別表<省略>
原審判決の主文、事実及び理由
主文
一 被告は原告に対し、金一二六万一九七八円及びうち金六三万〇九八九円に対する昭和四九年七月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担としその余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金一四〇〇万四〇七五円及びうち金四四二万二五九一円に対する昭和四九年七月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 被告(もと「清瀬町」であつたが、昭和四五年の市制施行により「清瀬市」となつた。)は、水道事業を経営している地方公共団体であり、水道施設として第一ないし第四給水場を設置管理している。
(二) 原告は、昭和三八年七月一日被告に雇員・技師補として雇傭され(以下原被告間の雇傭契約を「本件雇傭契約」という。)、以後昭和四九年一月七日まで前記第三給水場に勤務し、給水機械の管理・補修等の労働に従事してきた者である。
2 超過労働の根拠
(一) 本件雇傭契約の内容
本件雇傭契約の締結に際し、原告は、当時の被告代表者町長渋谷邦蔵らから、原告の職務内容は第三給水場に妻とともに住み込みのうえ、常時給水機械の管理・補修をすることである旨の説明を受けた。
従つて、原告がその妻を履行補助者として使用し、休日もなく二四時間連続労働に従事すべきことが本件雇傭契約の内容となつていたものである。
(二) 職務命令
仮に右(一)が認められないとしても、被告の水道課長岸民雄は、昭和四四年六月二〇日、原告を含む給水場勤務の職員に対し、「給水場勤務職員の勤務時間、休日、休暇に関する条例の準用にあたつての取扱いについて」と題する通達(以下「本件通達」という。)を発し、<1>正規の勤務時間以外でも給水場内で休憩待機し、必要に応じ何時でも勤務に服し得る態勢を欠いてはならない、<2>給水場からの外出は、上司に報告したうえ、代勤者と業務引継ぎを完了した後でなければしてはならない、<3>休日は代勤者の都合上、支障のない日に割り振る旨を命じた。
本件通達によると、給水場職員は、休日も含め二四時間を通じてその勤務する給水場に拘束され、使用者たる被告の指揮・監督のもとにあり、自由に労働から離れることができないのであるから、本件通達は、休日もなく二四時間連続労働に従事すべき旨の職務命令というべきである。
3 原告の超過労働
(一) 第三給水場は、住民に対し清浄で豊富な飲料水を供給する等の目的のため、地下水のくみ上げ、濾過・殺菌、貯水、配水を行ない、そのための各種機器が設置されている水道施設であるが、原告の職務内容は、右目的に対応して、給水量を需要に応じて調節し、水質を一定に維持するため各種機器を点検・測定・操作することである。
(二) 右職務内容に応じ、原告は、昭和四六年一〇月一四日から同四九年一月七日までの間(以下「請求期間」という。)、第三給水場内の管理室兼寝室に住み込んで、平日・土曜日・休日の区別なく毎日にわたり、二四時間を通じて左記のような労働を行なつた。
(1) 点検・測定
<1> 一時間に一回宛、混和池・配水池の各水位及び配水流量の点検、水圧の測定・記録、配水ポンプの作動状況の点検。
<2> 一日に三、四回、残留塩素の測定。
(2) 機械の操作
<1> 一〇分毎に一回宛、配水バルブの開閉。
<2> 一日に三、四回、塩素流入量の調節。
<3> 一五日に一回宛、塩素ポンプの取替。
(3) その他
<1> 給水場施設の補修・清掃。
<2> 住民からの苦情の受け付け及びそれに対する処置(簡単な修理等)。
<3> 給水場付近住民のための電話の取り次ぎ。
(4) 以上の労働を原告一人で行なうことは不可能であつたので、原告が住民からの苦情処理等のため外出している時や疲労のため夜間仮眠してしまつた時には、原告の妻が履行補助者としてこれを行なつた。
(5) 原告及びその妻は、具体的に右労働を行なつたほか、本件雇傭契約又は本件通達によつて常時第三給水場に拘束され、自由に労働から離脱することができなかつた。
(三) 以上によると、請求期間内の全時間が原告の労働時間であるというべきである。
4 請求金額の算定根拠
(一) 超過労働及び深夜労働割増賃金
(1) 算定の基礎となる賃金額
<1> 被告は、「清瀬市職員の給与に関する条例」(以下「給与条例」という。)一二条、一三条二項、一五条により、時間外労働及び休日労働(以下、これらをあわせて「超過労働」という。)並びに深夜労働の割増賃金額の算定方法につき、左記のように定めている。
(イ) 勤務一時間当りの給与額は、給料の月額及びこれに対する調整手当の合計額に一二を乗じ、その額を一週間の勤務時間に五二を乗じたもので除した額とする。
(ロ) 正規の勤務時間外に勤務すること(時間外労働)を命じられた職員には、勤務一時間につき、前記の一時間当りの給与額の一〇〇分の一二五(その勤務が午後一〇時から翌日の午前五時までの間である場合(深夜労働)には一〇〇分の一五〇)を支給する。
(ハ) 休日において勤務すること(休日労働)を命じられた職員には、勤務一時間につき、前記の一時間当りの給与額の一〇〇分の一二五(深夜労働の場合には一〇〇分の一五〇)を支給する。
<2> 前記<1>の算定方法によると原告の請求期間内の各月毎の一時間当りの超過労働割増賃金額及び深夜労働割増賃金額は左記のようになる。
(イ) 超過労働割増賃金額(一時間当りの給与額の一〇〇分の一二五)は別表(ロ)欄内のD1欄記載のとおりである。
(ロ) 深夜労働時間は、超過労働時間のうち午後一〇時から翌日午前五時までの間であるから、超過労働による割増(一〇〇分の一二五)に深夜であることによる割増(一〇〇分の二五)が加算されるものとして計算するのが便宜である。そこで、この加算額を求めると、別表(ロ)欄内のD2欄記載のとおりとなる。
(2) 超過労働及び深夜労働時間数
<1> 被告は、「清瀬市職員の勤務時間、休日、休暇に関する条例施行規則(以下「勤務時間等条例施行規則」という。)二条により、職員の勤務時間を左記のように定めている。
(イ) 月曜日から金曜日までの平日は、午前八時三〇分から午後五時まで。
(ロ) 土曜日は、午前八時三〇分から同一二時まで。
(ハ) 一週間の勤務時間は、四六時間(休憩時間を除くと四二時間一五分)。
<2> 原告は、前記3のように請求期間内の全時間につき労働したのであるから、超過労働時間数は左記のようになる。
(イ) 一日における超過労働時間数は、平日においては一五時間三〇分、土曜日においては二〇時間三〇分、休日においては二四時間である。
(ロ) 請求期間内の各月毎の平日・土曜日・休日の各日数は、別表(イ)欄内のA1・B1・C1各欄記載のとおりである。
(ハ) 従つて、請求期間内の各月毎の平日・土曜日・休日における各超過労働時間数は、別表(イ)欄内のA2・B2・C2各欄記載のとおりである。
<3> 原告は、前記3のように請求期間内の全時間につき労働したのであるから、そのうち深夜労働時間数は左記のとおりとなる。
(イ)一日における深夜労働時間数は七時間である。
(ロ) 請求期間内の各月毎の平日・土曜日・休日の各日数は、別表(イ)欄内のA1・B1・C1各欄記載のとおりである。
(ハ) 従つて請求期間内の各月毎の平日・土曜日・休日における各深夜労働時間数は、別表(イ)欄内のA3・B3・C3各欄記載のとおりである。
(3) 超過労働及び深夜労働割増賃金額
原告の請求期間内の超過労働割増賃金額、深夜労働割増賃金額、及びそれらの合計額は左記のとおりである。
<1> 各月毎の超過労働時間数は、前記のようにA2とB2とC2を加えたものであるから、これにD1の一時間当りの割増賃金額を乗じた金額が月毎の超過労働割増賃金額であり、別表(ハ)欄内のE1欄記載のとおりである。
<2> 各月毎の深夜労働時間数は、前記A3とB3とC3を加えたものであるから、これにD2の一時間当りの深夜労働割増賃金額を乗じた金額が月毎の深夜労働割増賃金額であり、別表(ハ)欄内のE2欄記載のとおりである。
<3> 各月毎の超過労働及び深夜労働割増賃金額は、前記E1とE2を加えた金額であるから、別表(ハ)欄内のE3欄記載のとおりであり、その請求期間内の合計額は、同欄末尾の合計額欄記載のように金九五八万一四八四円である。
(4) 既に弁済を受けた賃金額
被告は原告に対し、請求期間内の原告の超過労働に対する対価として左記金員を支払つた。
<1> 別表(二)欄内のF1欄記載の金員
被告は、昭和四八年九月一七日に三鷹労働基準監督署労働基準監督官から原告の超過労働につき改善措置をとるべき旨の勧告を受けたため、同四九年二月八日原告に対し、請求期間のうち同四六年一〇月一四日から同四八年一一月三〇日までの間の超過労働割増賃金として(平日につき八時間、土曜日につき一二時間、休日につき一五時間三〇分の超過労働をしたものとして)、別表(二)欄内のF1欄記載の金額を支払つた。
<2> 別表(二)欄内のF2欄記載の金員
前記<1>の金員のほか、被告は原告に対し、超過労働の対価として、別表(二)欄内のF2欄記載の金額を支払つた。
<3> 前記<1>、<2>によると、被告が原告に対し、原告の超過労働に対する対価として既に支払つた金額は、別表(二)欄内のF3欄記載のとおりである。
(5) 請求金額
原告が被告に対して請求する超過労働及び深夜労働割増賃金額は、前記(3)から(4)を控除した金額であるから、請求期間内の各月毎の請求金額は別表(ホ)欄記載の金額でありその合計額は同欄末尾の合計額欄記載のとおり金四四二万二五九一円である。
(二) 附加金
被告は原告に対し前記のように別表(ハ)欄内のE3欄記載の金員を超過労働及び深夜労働の割増賃金として支払わなければならないのに、労働基準法三七条に違反して、これを支払わなかつたものであるから、同法一一四条に基づいて右金員と同額の金員を支払わなければならない。請求期間内の各月毎の右附加金は、別表(ヘ)欄記載の金額であり、その合計額は、同欄末尾の合計額欄記載のとおり金九五八万一四八四円である。
(三) 不法行為による損害賠償
仮に、右附加金請求のうち、本訴提起前に被告が原告に支払つた超過労働賃金五一五万八八九三円に対する附加金の請求が認められないとしても、被告は原告に対し、左記理由により、右金五一五万八八九三円と同額の不法行為に基づく損害賠償金を支払わなければならない。
(1) 原告は、昭和三八年七月一日被告に雇傭されて以来同四九年一月七日までの長期間、第三給水場の管理室兼寝室に住み込みのうえ、給水機械の管理・補修の労働に従事してきたが、右労働は、一日二四時間を通じて殆んど不眠不休で行なわなければならないという苛酷なものであり、また、居住環境は、騒音・震動が激しいうえに手狭なため人が住むに値するものとはいえなかつた。そのため、原告は、精神的・肉体的に甚大な苦痛を蒙つた。
(2) 右住込労働は、被告の職務命令に基づくものであるところ、被告は、原告が右命令により甚大な精神的・肉体的苦痛を蒙ることは当然知り、また、容易にこれを知り得たものであるから、被告には右損害の発生につき故意又は少なくとも過失があるものというべきである。
(3) ところで、原告の右精神的・肉体的苦痛を金銭に換算すると、金五一五万八八九三円を下らない。
5 よつて、原告は被告に対し、労働基準法三七条に基づく超過労働及び深夜労働割増賃金並びに同法一一四条に基づく附加金(但し、内金五一五万八八九三円については、予備的に不法行為に基づく損害賠償金)として、合計金一四〇〇万四〇七五円と、内金四四二万二五九一円に対する本訴状が被告に送達された日の翌日である昭和四九年七月一六日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める(なお、附加金及び不法行為に基づく損害賠償金に対する遅延損害金は請求しない。)。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実はすべて認める。
2(一) 同2(一)の事実のうち、本件雇傭契約の締結に際し、当時の被告代表者町長渋谷邦蔵が原告に対し、原告の職務内容は第三給水場に住み込みのうえ、給水機械の管理・補修をすることである旨説明したことは認めるが、その余は否認する。
(二) 同2(二)の事実のうち、前段(原告主張のような本件通達が発せられたこと)は認めるが、後段(本件通達の趣旨)は争う。本件通達は、二四時間勤務を命じたものではなく、住込勤務の性質上正規の勤務時間外においても必要に応じて随時勤務すべしとの趣旨である。
3(一) 同3(一)の事実は認める。
(二) 同3(二)冒頭の事実は否認する。
(1) 同3(二)(1)(2)の事実のうち、原告主張の各点検・測定・操作を原告が行なつたことは認めるが、その余(右各行為の回数・頻度及びそれらを二四時間通じて行なつたこと)は否認する。
(2) 同3(二)(3)の事実のうち、住民からの苦情処理のため原告自身が修理を行なつたことは否認し、電話の取り次ぎを行なつたことは不知、その余は認める。
(3) 同3(二)(4)の事実は不知。
(4) 同3(二)(5)の事実は否認する。
(三) 同3(三)の主張は争う。
4(一) (1) 同4(一)(1)<1>の事実は認め、その算定方法によると計数上同4(一)(1)<2>の金額となることは争わない。
(2) 同4(一)(2)<1>の事実は認め、同4(一)(2)<2><3>の事実のうち、請求期間内の各月毎の平日・土曜日・休日の各日数が原告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。
(3) 同4(一)(3)の金額はすべて争う。
(4) 同4(一)(4)の<1>及び<2>の事実を認め、<3>の金額を争わない。
(5) 同4(一)(5)の金額は争う。
(二) 同4(二)の主張は争う。
(三) 同4(三)冒頭の主張は争う。
(1) 同4(三)(1)の事実のうち、原告が昭和三八年七月一日被告に雇傭されて以来同四九年一月七日までの間第三給水場に住み込みのうえ給水機械の管理・補修の労働に従事していたことは認めるがその余は否認する。
(2) 同4(三)(2)の事実は否認し、故意・過失の主張は争う。
(3) 同4(三)(3)は争う。
5 同5は争う。
三 抗弁
1 超過労働及び深夜労働割増賃金請求に対して
(一) 地方公務員の賃金についても労働基準法一一五条が適用されると解すべきところ、右規定によると賃金請求権は二年間これを行使しない場合には時効によつて消滅する。
(二) 被告は、給与条例五条により、給与期間(各月の一日から末日まで)の給料は毎月二一日に支給するものと定めている。
(三) 従つて、昭和四七年五月以前の各月の賃金請求権については、本訴提起の時に既にその確定期限の到来した時から二年を経過していた。
(四) 右賃金請求権は、普通地方公共団体に対する金銭給付を目的とする権利であるから、地方自治法二三六条二項によりその消滅時効について援用を要しない。
2 不法行為に基づく損害賠償請求に対して
(一) 違法性阻却事由
(1) 被告は、昭和四七年七月原告に対し、同年八月八日以降第三給水場について従前の勤務体制から三人による交替制勤務体制(一人の勤務時間は一日当り八時間)に切り替えることを提案した。
(2) ところが原告は、右提案を拒否して従前通りの労働をしたものであるから、同年八月八日以降生じた損害(精神的・肉体的苦痛)については原告みずからこれを承諾したものであり、従つて同日以降の不法行為については違法性が阻却されるものというべきである。
(二) 消滅時効
(1) 原告主張の不法行為は、損害が日々新たに発生する継続的不法行為であるが、雇傭関係に基づく精神的・肉体的苦痛という損害の性質上、原告は、損害の発生する日毎に損害及び加害者を知つていたものである。
(2) 従つて、昭和四七年六月六日以前に生じた損害の賠償請求権については、原告が不法行為に基づく損害賠償請求の予備的主張をした同五〇年六月六日には既に損害及び加害者を知つた時から三年を経過していた。
(3) 右損害賠償請求権の消滅時効についても、前記1(四)と同様に援用を要しない。
四 抗弁に対する認否
1(一) 抗弁1(一)は争わない。
(二) 同1(二)の事実は認める。
(三) 同1(三)の消滅時効の主張は争う。
(四) 同1(四)は争わない。
2(一) 同2(一)の事実はすべて否認する。
(二)(1) 同2(二)(1)の事実は認める。
(2) 同2(二)(2)の事実は認めるが、消滅時効の主張は争う。
(3) 同2(二)(3)は争わない。
第三証拠<省略>
理由
一 超過労働及び深夜労働割増賃金請求について
1 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、原告の超過労働の根拠について判断する。
(一) 本件雇傭契約の内容
(1) 本件雇傭契約の締結に際し、当時の被告代表者町長渋谷邦蔵が原告に対し、原告の職務内容は第三給水場に住み込みのうえ、給水機械の管理・補修をすることであると説明したことは当事者間に争いがない。
(2) また原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第九号証(但し、後記信用しない部分を除く。)、証人岸民雄、同渡辺瑞枝の各証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合すれば、次の事実が認められ、右認定に反する前掲甲第九号証の一部は右各証拠と対比してこれを信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
<1> 原告は、被告に雇傭される際、当時の被告代表者町長渋谷邦蔵から原告の職務内容について、給水機械が常時作動しているので二四時間監視しなければならないが、午後一一時過ぎには水の使用量が減少するので寝てもかまわない旨の説明を受けた。
<2> また、その頃、原告は、被告の当時の総務課長高橋正一らから、二四時間給水機械を管理(操作・点検・監視)することが原告の職務であるが、妻とともに第三給水場に住み込むことが条件であつて、原告一人で処理しきれない業務については、原告の妻にもその補助をしてもらう旨の説明を受けた。
(3) 右(1)及び(2)の各事実によれば、本件雇傭契約においては、原告の職務は、第三給水場に妻とともに住み込みのうえ、妻を履行補助者として使用し、給水機械の管理(操作・点検・監視等)をすることであるが、それは平日、土曜日、休日の区別なく、常に、正規の勤務時間を超えて、夜間或いは早朝にも、相当時間右労務に服すべきことを予定されたものであるというべきである。
この点につき、原告は、本件雇傭契約においては、原告は、右の程度にとどまらず、毎日二四時間連続労働に従事すべきものとされていたものであると主張するが、右事実を認めるに足る証拠はないから、右主張は採用できない。
してみれば、本件雇傭契約において、原告が毎日どの程度の超過労働及び深夜労働をなすべく義務づけられていたかは、一にかかつて次に説示する職務命令の内容如何によるものというべきである。
(二) 職務命令
(1) 被告の水道課長岸民雄が、昭和四四年六月二〇日、原告主張のような内容の本件通達を発したことは当事者間に争いがない。
(2) そこで、本件通達の趣旨について検討する。
<1> 右争いのない事実、原本の存在とその成立につき争いのない甲第二号証、証人岸民雄(但し、後記信用しない部分を除く。)、同武川慎二郎、同長岐夫美雄の各証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
(イ) 本件通達は、住み込み職員の配置されている第一、第三、第四給水場の職員に対して、右職員を指揮・監督する地位にある水道課長から発せられたものである。
(ロ) 被告が右給水場において住み込み勤務体制を採用したのは次のような理由に基く。即ち、給水場においては、常時給水機械を作動させておかなければならず、そのため正規の勤務時間以外にも機械の操作・点検の必要があり、また機械の故障や停電などの事故の時に、速やかに対処できる態勢をとつておかなければならないという給水業務の特殊性に基づくものである。従つて、通常の職員のように、正規の勤務時間以外や休日においては、自由に職場から離れてもいいものとすると、右給水業務の特殊性に対応できなくなるため、本件通達により、正規の勤務時間以外及び休日においても、必要に応じ、機械の操作・点検をすることや故障・停電などの事故に備えて、給水場内で待機することを命じたものである。
(ハ) 給水場勤務の職員が正規の勤務時間以外及び休日においてなすべき機械の操作・点検などの労働が具体的に如何なるものであるかは、服務規程或いは通達などにより一義的に定まつているわけではなく、要するに需要量に応じて給水できるように機械の操作・点検をすることであり、従つて設備の異なる各給水場毎になすべき労働に相違があつた。また、一口に待機とはいつても、どのような態勢をとつていなければならないかは各給水場によつて異なつていた。しかしながら、職員は、給水場の中に居室を与えられ、そこに居住しながら労働していたものであるから、待機の態勢をとるとはいつても、全く私的生活を行ないえなくなるわけではなく、職場から離れない限り、ある程度私的生活のため時間を用いることができたものである。
(ニ) また給水場勤務職員がその職場から離れるときには、上司に報告して代勤者を差し廻してもらい、業務引き継ぎを完了しなければならないが、本件通達運用の実際においては、職員からの報告があれば常に代勤者を差し廻してもらえるわけではなく、その理由はある程度制限されていた。
<2> 右<1>の各事実によると、本件通達は、給水場勤務職員に対し、正規の勤務時間以外及び休日においても、自由にその職場から離脱してはならず、給水場内において私的生活を営むかたわら待機の態勢を採り、必要に応じ給水機械の操作・点検などの労働をすべき旨の職務命令であるというべきである。なお、岸民雄の証言中には、本件通達の趣旨は命令ではなく要望である旨の供述部分もあるが、前示の本件通達の内容(文言)、これを発した者の地位、及びその運用の実際に照してみて、右供述部分は信用できない。
3 本件通達の趣旨が前示のようなものであるとすると、原告の超過労働・深夜労働割増賃金請求権の有無は、原告が請求期間内の各日において、正規の勤務時間以外、何時間給水機械の操作・点検等を行ない、また待機の態勢をとつていたかによつて決せられることになるので、次に原告の請求期間内における具体的な超過労働の事実について判断することとする。
(一) 請求原因3(一)の事実は当事者間に争いがない。
(二) 同3(二)(1)ないし(5)のうち、原告が第三給水場において、混和池・配水池の各水位及び配水流量の点検、水圧の測定・記録、配水ポンプの作動状況の点検、残留塩素の測定、配水バルブの開閉、塩素流入量の調節、塩素ポンプの取替、給水場施設の補修・清掃、住民からの苦情の受け付けの各労働を行なつたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、前掲甲第九号証、いずれも成立に争いのない甲第七号証、第三一ないし第三三号証、乙第五号証の一ないし四、昭和五〇年一一月四日当時の第三給水場の施設を撮影した写真であることにつき争いのない甲第一二号証の一ないし一九、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一一号証、証人岸民雄、同武川慎二郎、同長岐夫美雄、同星野政男、同伊東弘幸、同森田正美、同渡辺瑞枝の各証言、及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はなく、請求原因3(二)(1)ないし(5)のうち右認定事実を除くその余の事実を認めるに足りる証拠はない。
(1) 第三給水場においては、三か所の井戸(昭和三八年当時は三号井一か所であつたが、その後同四〇年ころ七号井が、同四四年ころ一〇号井が各新設され、現在のように三か所となつた。)から水中ポンプによつて汲み上げた地下水を、濾過用受水槽(この槽内の水位が混和地水位であり、右受水槽及び低圧受電室に水位を示すメーターがある。)及び東洋濾水器を通して水の濁りを消した後(但し、濾過用受水槽と東洋濾水器は昭和四七年に設けられたものであり、それ以前は薬剤を注入して水の濁りを消していた。)、受水槽(この槽内の水位が配水池水位であり、右受水槽及び低圧受電室に水位を示すメーターがある。)に貯水し、これに塩素を流入することによつて滅菌したうえ(残留塩素を測定するのは滅菌されているかどうか確認するためである。)、配水ポンプ(四台設置されているが、そのうち一台は故障時に備えた予備である。また三台がすべて常時作動しているわけではなく、配水流量に応じて作動台数を調節する。夜間は、配水流量が少ないので、一台の作動ですむ場合が多い。)によつて配水する仕組みになつており(右配水流量を測定・記録するのがベンチユリーメーターである。)、そのほか高圧受電室、自家発電機などが設置されていた。
(2) 配水流量は、季節及び時間によつて異なるが、常時配水しなければならないので、前記各機械を二四時間連続して作動させ、しかも需要量に応じて配水流量を調節するため、適宜機械の操作をする必要があつた。また、受水槽の水位も配水流量に応じて刻々と変化するので、右水位を一定に保つためには、水位の点検、井戸の水中ポンプの作動点検が必要であつた。
(3) 原告は、前示(1)(2)の作業内容に応じて、混和池・配水池の各水位の点検、配水流量の点検、水圧の測定・記録、水中ポンプ及び配水ポンプの作動状況の確認、塩素流入量の調節、残留塩素の測定、配水バルブの開閉の各労働を行ない、右各労働は昼間のみならず夜間にもわたつていたが、その回数・頻度は、配水流量及びその変化が多い昼間は操作・点検の回数も多く、配水流量及びその変化が少ない夜間は操作・点検の回数も少なかつた。また、原告は、機械の故障や停電などの事故に備えて、事務室或いは管理室兼寝室において、機械の作動音に注意しながら待機していたが、夜間においても、ふとんに入らず、作業服のまま横になつていることが少なくなかつた。
(4) 原告は、右の各労働のほか、機械その他の施設の修理、塩素ボンベの取り替え、水が濁つたり水道管が破裂したなどの住民からの苦情の受け付け及びそれに対する処置(簡単な応急修理ですむ場合には、出向いて原告みずから修理することもあつた。)なども行なつた。また右各労働は、昼間のみならず夜間に及ぶことも時々あつた。なお、昭和四二年ころまでは、第三給水場の近くにある都営住宅などの住民のため電話の取り次ぎをしていたが、同年に電話が自動制になつたときから、右取り次ぎの仕事はなくなつた。
(5) 原告が住民からの前記苦情処理のため外出したり、夜間疲労のため眠り込んでしまつた時には、原告の妻が住民からの苦情を受け付けたり、機械の操作・点検などを原告に代わつて行なつた。
(6) 原告の第三給水場における前示労働は、平日も土曜日も休日も全く同じであり、従つて労働に従事した時間数は、平日・土曜日・休日で差異はなかつた。
(7) しかしながら、一日のすべての時間が前記各労働にあてられていたわけではない。即ち、住み込みということで職場と住居が一致していたので、原告は右労働を行なう時間のほかは、家事、休憩、著作の執筆などの私的生活に時間を用いていた。また原告の妻も、原告が睡眠している間は、常に代わつて労働したというわけではない。
しかし、原告が右私的生活に用いていた時間で、かつ原告の妻が代わつて労働に従事していなかつた時間は、昼休みの休憩を除いて、多くとも一日六時間を超えることはなかつた(なお、土曜日・休日においても平日と同程度の昼休みの休憩(四五分間)をとつていたものであるから、土曜日・休日においては、右私的時間は六時間四五分ということになる。)
(三) 以上の認定事実によると、原告及びその妻が請求期間内の各日において、超過労働及び深夜労働に従事した時間数は、以下のとおりとなるというべきである。
(1) 平日
原告は、前示のように昼休みの休憩を除いて、多くとも六時間しか私的生活に時間を用いなかつたものであるから、平日の超過労働時間数は、少なくとも、一日二四時間のうち、正規の勤務時間(昼の休憩四五分を含む。)であることにつき当事者間に争いのない八時間三〇分と私的生活に用いた六時間を控除した九時間三〇分であることになる。しかし、このうち何時間(具体的に何時から何時まで)深夜労働に従事したかについては、本件に顕れた全証拠を以ても、正確にこれを特定することができない。そこで、やむを得ず、これを平均的且つ控え目に考えてみると、右超過労働時間数から平日における通常の全時間外労働の時間数(即ち、午前五時から午前八時三〇分まで三時間三〇分と午後五時から午後一〇時まで五時間との合計八時間三〇分)を差引けば、原告が平日において、前記超過労働時間のうち深夜労働(午後一〇時から翌日午前五時までの労働)に従事した時間は、少なくとも一時間あることになる。
(2) 土曜日
土曜日における正規の勤務時間が三時間三〇分であることは当事者間に争いがなく、前示のように原告は、平日と同様に、昼に四五分間の休憩をとり、そのほか六時間私的生活にあてていたものであるから、土曜日における超過労働時間数は、少なくとも二四時間から右三時間三〇分と四五分と六時間を控除した一三時間四五分であることになる。しかし、このうち、何時間深夜労働に従事したかについては正確にこれを特定することができない。そこで、平日と同様、これを平均的且つ控え目に考えてみると、右超過労働時間数から土曜日における通常の全時間外労働の時間数(即ち、午前五時から午前八時三〇分まで三時間三〇分と午後零時から午後一〇時まで一〇時間との合計一三時間三〇分より昼の休憩に使用した四五分を差引いた一二時間四五分)を控除すれば、原告が土曜日において前記超過労働時間のうち深夜労働に従事した時間は、少なくとも、一時間あることになる。
(3) 休日
前示のように、原告は休日においても、昼の四五分間休憩をとり、そのほか六時間私的生活にあてていたものであるから、休日における超過労働時間数は、二四時間から右四五分と六時間を控除した一七時間一五分であることになる。しかし、このうち、何時間深夜労働に従事したかについては、正確にこれを特定することができない。そこで、平日及び土曜日と同様、これを平均的且つ控え目に考えてみると、右超過労働時間数から休日における通常の全時間外労働の時間数(即ち、午前五時から午後一〇時までの一七時間より昼の休憩に使用した四五分を差引いた一六時間一五分)を控除すれば、原告が休日において前記超過労働時間のうち深夜労働に従事した時間は、少なくとも一時間あることになる。
4 超過労働及び深夜労働割増賃金額
(一) 請求期間内の各月毎の超過労働及び深夜労働割増賃金額並びにその合計額は、以下のとおりである。
(1) 超過労働割増賃金額及び深夜労働割増賃金額の算定方法が請求原因4(一)(1)<1>記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、また右争いのない算定方法によると、原告の請求期間内の各月毎の一時間当りの超過労働割増賃金額(一時間当りの給与額の一〇〇分の一二五)が別表(ロ)欄内のD1欄記載のとおりであること、及び超過労働のうち深夜労働について、超過労働による割増のほか更に深夜労働であることにより加算される割増賃金額(一時間当りの給与額の一〇〇分の二五)が別表(ロ)欄のD2欄記載のとおりであることも当事者間に争いがない。
(2) 原告の請求期間内の各月毎の超過労働時間数及びそのうちの深夜労働時間数は次のとおりである。
<1> 超過労働時間数
(イ) 前示のように平日における一日当りの超過労働時間数は九時間三〇分であるから、これに各月の平日の日数を乗じたものが各月毎の平日における超過労働時間数であるところ、各月の平日の日数が別表(イ)欄内のA1欄記載のとおりであることは当事者間に争いがないので、これに前記九時間三〇分を乗じた時間数は別表(ト)欄内のG1欄記載のとおりである。
(ロ) 同じく土曜日における一日当りの超過労働時間数は一三時間四五分であるから、これに各月の土曜日の日数を乗じたものが各月毎の土曜日における超過労働時間数であるところ、各月の土曜日の日数が別表(イ)欄内のB1欄記載のとおりであることは当事者間に争いがないので、これに前記一三時間四五分を乗じた時間数は別表(ト)欄内のG2欄記載のとおりである。
(ハ) 同じく休日における一日当りの超過労働時間数は一七時間一五分であるから、これに各月の休日の日数を乗じたものが各月毎の休日における超過労働時間数であるところ、各月の休日の日数が別表(イ)欄内のC1欄記載のとおりであることは当事者間に争いがないので、これに前記一七時間一五分を乗じた時間数は別表(ト)欄内のG3欄記載のとおりである。
(ニ) 各月毎の超過労働時間数は、平日・土曜日・休日における各超過労働時間数を加えたものであるから、前記別表(ト)欄内のG1・G2・G3の各欄記載の時間数を加えると、別表(ト)欄内のG4欄記載の時間数となる。
<2> 深夜労働時間数
(イ) 前示のように、平日・土曜日・休日とも、超過労働時間のうちで深夜労働に該当する時間は、少なくとも一日当り一時間である。従つて、各月毎の深夜労働時間数は、各月の日数に一時間を乗ずると求められる。
(ロ) 各月の日数は、各月の平日・土曜日・休日の各日数を加えたものであるところ、各月の平日・土曜日・休日の各日数が別表(イ)欄内のA1・B1・C1各欄記載の日数であることは前示のとおりであるから右A1・B1・C1の合計日数に一時間を乗ずると、別表(ト)欄内のG6欄記載の時間数となる。
(3) 超過労働及び深夜労働割増賃金額
<1> 超過労働割増賃金額
各月毎の超過労働割増賃金額は、各月における一時間当りの超過労働割増賃金額(前示(1))に超過労働時間数(前示(2))を乗ずると求められるから、別表(ト)欄内のG5欄記載の金額となる。
<2> 深夜労働割増賃金額
各月毎の深夜労働割増賃金額は、各月における一時間当りの深夜労働割増賃金額(前示(1))に深夜労働時間数(前示(2))を乗ずると求められるから、別表(ト)欄内のG7欄記載の金額となる。
<3> 超過労働割増賃金と深夜労働割増賃金との合計額
各月毎の超過労働割増賃金と深夜労働割増賃金との合計額は、別表(ト)欄内のG5欄記載の金額と同G7欄記載の金額を加えたものであり、同G8欄記載の金額である。
(二) ところで、被告が原告に対し、請求期間内の各月の原告の超過労働に対する対価として、別表(二)欄内のF3欄記載の金額を支払つたことは当事者間に争いがないので、この金額を前示(一)の超過労働及び深夜労働割増賃金合計額から控除すると、残額は別表(ト)欄内のG9欄記載の金額となる。
(三) そこで、被告主張の消滅時効の抗弁について判断する。
(1) 地方公務員の賃金についても労働基準法一一五条が適用されること、右規定によると賃金請求権は二年間これを行使しない場合には時効によつて消滅すること、並びに原告の被告に対する前示超過労働及び深夜労働割増賃金請求権は普通地方公共団体に対する金銭給付を目的とする権利であるから、地方自治法二三六条二項により、その消滅時効について援用を要しないことは、いずれも被告主張のとおりである。
(2) 被告が給与条例五条により給与期間(各月の一日から末日まで)の給料は毎月二一日に支給するものと定めていることは当事者間に争いがないので、原告の被告に対する各月毎の超過労働及び深夜労働割増賃金請求権についても、各月の二一日がその確定期限であるというべきである。
(3) ところで、本訴の提起されたのが昭和四九年六月二〇日であることは本件記録上明らかであるから、昭和四七年五月以前の各月の超過労働及び深夜労働割増賃金請求権については、本訴提起の時に既に確定期限の到来した時から二年を経過していたことは暦上明らかである。
(4) そうすると、請求期間のうち昭和四七年五月以前の各月の超過労働及び深夜労働割増賃金請求権は既に時効により消滅したものというべく、原告が被告に対して支払を請求しうるのは別表(ト)欄内のG10欄記載のとおり昭和四七年六月以降の各月の超過労働及び深夜労働割増賃金請求権のみであり、その合計額は、同欄末尾の合計額欄記載のとおり金六三万〇九八九円であるというべきである。
5 以上によると、原告の被告に対する超過労働及び深夜労働割増賃金請求は、金六三万〇九八九円の限度においてのみ理由があるのでこれを認容し、その余については失当としてこれを棄却すべきものである。
二 附加金請求について
1 労働基準法一一四条の附加金は、同法の規定違背に対する一種の民事的制裁としての性質を有し、労働者の請求に基づいて裁判所の命令によつて課せられ、その命令をまつてはじめて使用者の支払義務が発生するものである。従つて使用者に同法三七条の違反があつても、既に超過労働割増賃金額に相当する金額の支払をなし、或いは右割増賃金支払債務が時効によつて消滅した場合には、労働者は、右支払ずみの割増賃金額或いは時効によつて消滅した割増賃金支払債務に相当する金額について附加金の請求をなしえないものと解するのが相当である。
2 ところで、本件においては、被告は原告に対し結局金六三万〇九八九円の超過労働及び深夜労働割増賃金の支払義務を負うのみであること前叙のとおりである。そうとすれば、原告は被告に対し、右金額に相当する別表(チ)欄記載の金額(合計額は同欄末尾合計額欄記載の六三万〇九八九円)についてのみ附加金の請求をなしうるものというべく、その余の金額については失当としてこれを棄却すべきものである。
三 不法行為に基づく損害賠償請求について
1 原告主張の不法行為は、要するに、使用者である被告が、故意又は過失により、被用者である原告に対し、長期間劣悪な環境の下で荷酷な労働を強制したことに基くものであるところ、原告の第三給水場における本件労働が相当きびしいものであつたことは前叙のとおりであるが、さりとて被告が故意又は過失により原告に対し原告主張のような苛酷な労働を強制したものとまで認めるに足る的確な証拠は存在しないのみならず、そもそも右のような不法行為においては、使用者が被用者に対し当該労働に対して正当な対価を支払う場合には、被用者には、通常、他に損害は生じないものと解するのが相当である。
2 ところで、本件においては、原告は、被告の職務命令に基づく超過労働及び深夜労働につき割増賃金(即ち、正当な対価)を請求し、前示のように既払賃金等を控除した残額につき請求が認容されているのであるから、もはや原告には損害はないものというべきである。従つて、原告の前記損害賠償請求は、爾余の点につき判断をするまでもなく、理由がない。
四 以上の次第であるから、被告は原告に対し、超過労働及び深夜労働割増賃金並びに附加金の合計金一二六万一九七八円(別表(リ)欄末尾合計額欄記載)と、右金員のうち超過労働及び深夜労働割増賃金六三万〇九八九円に対する本訴状が被告に送達された日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和四九年七月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり、原告の本訴請求は、以上の各金員の支払を求める限度においてのみ理由があるのでこれを認容し、その余は失当であるので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
別表<省略>